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東京高等裁判所 昭和45年(の)1号 判決

主文

被告会社を罰金二〇万円に

被告人坂東孝利を懲役一年及び罰金一〇万円に各処する。

但し、本裁判確定の日より三年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人坂東において右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。訴訟費用は全部被告人らの連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社三愛土地は、東京都港区南青山五丁目六番二三号に本店を、同都渋谷区渋谷二丁目三番九号に主たる事務所をおき、東京都知事の免許を受けて宅地建物取引業を営むもの、被告人坂東孝利は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を掌理しているものであるが、

第一  被告人坂東はさきに被告会社の業務に関し、千葉県松戸市高柳新田一一三番地及び同県東葛飾郡沼南町高柳新田字通小屋一二四番地の一所在の住宅用地の分譲につき昭和四三年一〇月一二日付日刊スポーツ新聞に全頁広告をなすとともに同月一一日から同月一四日までの間広告ビラ約三一万枚を読売新聞に折り込み東京都及び千葉県下の同新聞購読者である一般消費者に配布した際、右全頁広告及び広告ビラに、右住宅用地が実際には国鉄常磐線松戸駅から徒歩約一時間四七分、最寄駅である新京成電鉄線五香駅からでも徒歩約一七分を要する位置に所在するのにこれが国鉄常磐線松戸駅から徒歩七分の位置に所在する旨、またその分譲価格も3.3平方メートルあたり二五、〇〇〇円ないし三五、〇〇〇円であるのに一七、〇〇〇円ないし二五、〇〇〇円・特選地三五、〇〇〇円である旨等を記載するなどして、誇大広告をし不当に顧客を誘引し公正な競争を阻害するおそれがあると認められたため、同四四年一月一七日付をもつて公正取引委員会から、被告会社は右広告内容につきあらかじめ同委員会の承認を受けたうえ訂正広告をすべき旨(第一項)並びに右訂正広告をしたときは文書をもつて同委員会に報告すべき旨(第四項)のほか、同会社は(一)「今後、住宅用地の取引に関し、新聞、ビラ、ポスター、その他これらに類似する物による広告をするときは、本件事実と同様の記載または写真の掲載をすることにより当該住宅用地の内容について実際のものよりも著しく優良であり、その価格について実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される広告をしてはならない」旨(第二項)並びに(二)「今後一年間、住宅用地の取引に関し、新聞、ビラ、ポスターその他これらに類似する物による広告をしたときは、ただちに、当該広告物を同委員会に提出しなければならない」旨(第三項)の排除命令を受け、同排除命令は同年四月五日確定した審決とみなされるにいたつたものであるにもかかわらず、被告人坂東は被告会社の業務に関し

一  右排除命令(一)(第二項)に違反して住宅用地の分譲につき前記広告と同様の不当表示をしようと企て、被告会社が分譲する住宅用地は実際には、(イ)神奈川県相模原市上溝丁三号五、六三六番地の六所在の住宅用地(以下「上溝の土地」と略記する)は、東京急行電鉄田園都市線及び国鉄横浜線長津田駅(以下「長津田駅」と略記する)から約12.5キロメートル(徒歩約二時間三六分)、国鉄横浜線橋本駅(以下「橋本駅」と略記する)から八キロメートル(徒歩約一時間四〇分)、小田急電鉄線新原町田駅(以下「新原町田駅」と略記する)から約7.5キロメートル(徒歩約一時間三四分)、最寄駅である国鉄相模線上溝駅(以下「上溝駅」と略記する)からでも約二キロメートル(徒歩約二五分)の距離に所在し、その分譲価格も一平方メートルあたり約一七、八〇〇円から二一、〇〇〇円であり、(ロ)同市大沼字相模原二、五八八番地の三所在の住宅用地(以下「大沼の土地」と略記する)は、橋本駅から約一〇キロメートル(徒歩約二時間)、新原町田駅から約四キロメートル(徒歩約五〇分)、長津田駅から約九キロメートル(徒歩約一時間五三分)、小田急電鉄線鶴川駅(以下「鶴川駅」と略記する)から約12.2キロメートル(徒歩約二時間三三分)、最寄駅である小田急電鉄線相模大野駅からでも約三キロメートル(徒歩約三七分)の距離に所在し、その分譲価格も一平方メートルあたり約一六、〇〇〇円から二〇、〇〇〇円であり、(ハ)東京都町田市木曾町字一五号二、〇三七番の一所在の住宅用地(以下「木曾町の土地」と略記する)は、最寄駅である新原町田駅から約3.5キロメートル(徒歩約四〇分)の距離に所在し、その分譲価格も一平方メートルあたり約二一、〇〇〇円であり、(ニ)神奈川県相模原市大沼西通り三、七五一番地所在の住宅用地(以下「西通りの土地」と略記する)は、鶴川駅から約14.8キロメートル(徒歩約三時間五分)、最寄駅である相模大野駅からでも約三キロメートル(徒歩約三七分)の距離に所在し、その分譲価格も一平方メートル当り約一五、〇〇〇円から一八、〇〇〇円である等の状況にあつたのに

1 昭和四四年九月二〇日から同月二三日までの間、右(イ)の上溝の土地の分譲に関し、被告会社名義の広告ビラ約一一二万枚を、東京都大田区西蒲田五丁目一八番一九号朝日新聞蒲田専売所等の新聞販売店を介し朝日新聞・読売新聞及び毎日新聞に折り込み同都大田区・品川区・目黒区・世田谷区、神奈川県横浜市・川崎市等の右新聞購読者である一般消費者に配布するに際し、右広告ビラに、長津田駅南口前を案内所として「田園都市線・国電横浜線長津田高級商住宅、駅から八〇〇メートル、あえて……駅前団地といいます。にぎやかな駅前通りからちよつと……はいります。価格一m2八、〇〇〇円〜一一、〇〇〇円」等と記載し

2 同年一〇月四日から同月七日までの間、前記(イ)の上溝の土地及びの大沼の土地の分譲に関し、被告会社名義の広告ビラ約八四万枚を、同都世田谷区羽根木二丁目五番二〇号読売新聞代田橋出張所等の新聞販売店を介し前記1記載の新聞及びサンケイ新聞に折り込み同都世田谷区・西多摩郡・南多摩郡・神奈川県横浜市・川崎市・山梨県等の右新聞購読者である一般消費者に配布するに際し、右広告ビラに、橋本駅前を案内所として「国電横浜線橋本―駅前住宅地、決定的魅力・駅から歩いて七分、駅から何回も測りました、間違いありません。価格一m2八、〇〇〇円〜一一、〇〇〇円・特選商住宅地一五、〇〇〇円、一区画(一〇〇m2)八〇万円より」等と記載し

3 同年一〇月一〇日から同月一三日までの間、前記(ロ)の大沼の土地の分譲に関し、被告会社名義の広告ビラ約一一五万枚を前記朝日新聞蒲田専売所等の新聞販売店を介し前記1記載の新聞に折り込み同都大田区・世田谷区・中野区・杉並区・神奈川県横浜市・川崎市等の右新聞購読者である一般消費者に配布するに際し、右広告ビラに、新原町田駅前を案内所として「小田急新原町田、駅に近い、駅から八〇〇メートル、価格一m2八、〇〇〇円〜一一、〇〇〇円・特選地一五、〇〇〇円」等と記載し

4 同年一〇月一八日から同月二〇日までの間、前記(ロ)の大沼の土地及び(イ)の上溝の土地の分譲に関し、日本商工株式会社の名義を借り受けて同会社名義の広告ビラ約九九万枚を、前記朝日新聞蒲田専売所等の新聞販売店を介し前記1記載の新聞に折り込み同都大田区・品川区・目黒区・世田谷区・町田市、神奈川県横浜市・川崎市等の右新聞購読者である一般消費者に配布するに際し、右広告ビラに、長津田駅南口前を案内所として「田園都市線・国電横浜線長津田・田園高級地、駅から八〇〇メートル、お買物は……スグソコ駅前商店街、価格一平方メートル八、〇〇〇円〜一一、〇〇〇円・特選地一五、〇〇〇円」等と記載し

5 同年一一月八日から同月一〇日までの間、前記(ロ)の大沼の土地及び(ハ)の木曾町の土地の分譲に関し、日本商工株式会社の名義を借り受けて同会社名義の広告ビラ約九〇万枚を、前記朝日新聞蒲田専売所等の新聞販売店を介し前記1記載の新聞に折り込み、同都大田区・品川区・世田谷区・北多摩郡・南多摩郡、神奈川県横浜市・川崎市・藤沢市等の右新聞購読者である一般消費者に配布するに際し、右広告ビラに、新原町田駅前東口を案内所として「小田急新原町田駅から八〇〇メートル、価格一m2八、〇〇〇円〜一三、〇〇〇円・特選地一八、〇〇〇円」等と記載し

6 同年一一月一五日から同月一七日までの間、前記(ロ)の大沼の土地の分譲に関し、日本商工株式会社の名義を借り受けて同会社名義の広告ビラ約九七万枚を、前記朝日新聞蒲田専売所等の新聞販売店を介し前記1記載の新聞に折り込み同都大田区・品川区・世田谷区・北多摩郡・南多摩郡、神奈川県横浜市・川崎市・藤沢市等の右新聞購読者である一般消費者に配布するに際し、右広告ビラに、新原町田駅前を案内所として「小田急新原町田、近い、駅から八〇〇メートル、価格一m2八、〇〇〇円〜一三、〇〇〇円・特選地一八、〇〇〇円、一区画一〇〇m2八〇万円より」等と記載し

7 昭和四五年一月一一日、前記(ロ)の大沼の土地及び(イ)の上溝の土地の分譲に関し、鳥井俊勇から鳥井建築測量設計事務所の名義を借り受けて同事務所名義の広告ビラ約七一万枚を、前記朝日新聞蒲田専売所等の新聞販売店を介し朝日新聞及び読売新聞に折り込み同都大田区・品川区・世田谷区・町田市・南多摩郡、神奈川県横浜市・川崎市等の右新聞購読者である一般消費者に配布するに際し、右広告ビラに鶴川駅前を案内所として「小田急線・準急停車駅鶴川、駅から八〇〇メートル、大手電鉄会社の分譲地よりはるか駅寄り・駅に一番近い歩いてください、駅から歩いてください……八〇〇メートル、価格一m2八、〇〇〇円一〜一、〇〇〇円・特選地一五、〇〇〇円」等と記載し

8 同年一月一五日から同月一八日までの間、前記(ロ)の大沼の土地及び(ニ)の西通りの土地の分譲に関し、前同様鳥井建築測量設計事務所の名義を借り受けて同事務所名義の広告ビラ約九五万枚を、前記朝日新聞蒲田専売所等の新聞販売店を介し前記1記載の新聞に折り込み同都大田区・品川区・世田谷区・町田市・南多摩郡、神奈川県横浜市・川崎市等の右新聞購読者である一般消費者に配布するに際し、右広告ビラに、前記7と同様の記載をなし

いずれも住宅用地の取引に関しビラによる広告をするに際し、前記排除命令の事実と同様の記載をすることにより当該住宅用地の内容について実際のものよりも著しく優良であり、その価格についても実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される広告をし

二  前記排除命令(二)(第三項)に違反し、昭和四四年一月一七日以降一年以内に前記第一記載の各住宅用地の取引に関し配布した広告ビラを、いずれも公正取引委員会に提出せず

もつて確定した審決に従わず

第二  被告人坂東は、被告会社の業務に関し、被告会社が昭和四四年一二月二五日付をもつて神奈川県知事から宅地建物取引業法第二〇条第三項に基づき昭和四五年一月五日から六カ月間神奈川県内における業務の停止を命ぜられたにもかかわらず、これに違反し、鳥井俊男から鳥井建築測量設計事務所の名義を借り受けたうえ同事務所の名義を用いて、別紙販売一覧表記載のとおり、昭和四五年一月一一日から同月一八日までの間、前後一二回にわたり、神奈川県相模原市大沼字相模原二、五八八番地の三ほか一カ所において、曾我国男ほか一一名に対し、同所所在の住宅用地を販売し

もつて前記業務停止命令に違反して業務を営んだものである。

(証拠の標目)〈略〉

(法令の適用)

被告人らの判示事実を法律に照すと、判示第一の点は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律九五条、九〇条三号、不当景品類及び不当表示防止法九条一項、六条、四条に、判示第二の点は宅地建物取引業法二八条、二四条三号、二〇条三項に各該当するところ、被告人坂東孝利に対しては、判示第一の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の罪につき懲役刑と罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文一〇条により重い判示第二の罪につき定めた刑に併合加重した刑期範囲内及び所定罰金額の範囲内において、被告人坂東孝利を懲役一年及び罰金一〇万円に、被告会社に対し、同法四八条二項を適用し各所定罰金の合算額の範囲内において、被告会社を罰金二〇万円に各処することとし、被告人坂東孝利に対し、同法二五条一項に従い本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、同被告人が右罰金を完納することができないときは、同法一八条により、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用し、全部被告人らの連帯負担とする。

よつて主文のとおり判決する。(堀義次 高橋幹男 目黒太郎 環直弥 伊東正七郎)

別紙 販売一覧表〈略〉

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